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出題ミス? センター試験「ムーミン問題」が示した入試の可能性と限界

2018年度大学入試センター試験を読み解く

◆それでも「ムーミン問題」は解けた

 主に二つの問題点から、大ブーイングを浴びることとなってしまったセンター試験の「ムーミン問題」。ただし、「ムーミンの問題を高校生が解けるかどうかと聞かれれば、それは可能だったと思います」と石川一郎氏は話す。
「ムーミンの問題は消去法で解ける問題でした。『ムーミン』と一緒に挙げられていた『小さなバイキングビッケ』の方に注目するんです。作品名に入っている『バイキング』は、かつてヨーロッパ各地に進出したノルマン人の集団で、ノルウェーとの関連が深い。このことは地理の授業でも習うので、『小さなバイキングビッケ』の方がノルウェーだと分かり、結果的に『ムーミン』の方がフィンランドと答えられる仕組みになっていました」。

 ムーミン自体については、地理では取り扱われていないが、与えられたヒントをもとに推理をすれば、たとえムーミンに関する知識が全くなかったとしても解けるとのことだ。
「ムーミンの舞台は果たしてフィンランドなのか、ということや、もう一方の『小さなバイキングビッケ』についても、バイキングなのだからノルウェーだけが舞台ではないのではないか、といった指摘があるのは分かります。ただ、地理の知識を使うのだとすれば、やはり正答は導き出せるのではないでしょうか」。

◆ムーミンが示唆するこれからの入試

 さて、様々な議論を生んだ「ムーミン問題」だが、その評価はともかくとして、かなりユニークかつトリッキーな出題例だったと言えるのではないか。
「センター試験に今回のような問題が出たことに、驚いた人もいると思います。これは間違いなく文科省の教育改革が影響していると言えるでしょう」と石川氏は話す。
 すでに公表されている通り、現行のセンター試験は2020年をもって廃止され、代わりに新テストが実施されるようになる。この入試の大転換は、知識・技能だけでなく、思考力や判断力、表現力などといった能力も重視するという、文科省の新しい教育目標に基づいている。端的に言えば、センター試験では知識しか問えないので、思考力を問うための新しい試験を作ろう、という流れなのだ。

 では、「ムーミン問題」が教育改革の影響を受けている、というのはどういうことなのか。
「ムーミンの問題について、地理を教えている人たちの中から『思考力を使ういい問題だ』という意見が出ています。ただ学校の授業で覚えたことをそのまま答えさせるのではなく、知識をもとに答えを推理させるような問題だったという意味では、確かに思考力を問うような問題だったと言えます。それは、思考力を重要視する文科省の教育改革の方向性に合致していますから、おそらくセンター試験に代わる新テストには、『ムーミン問題』のような問題がもっと多く入ってくる可能性があります」。
 つまり今回の「ムーミン問題」は、過渡期にある大学入試に現れた「未来の入試問題」ということなのだろうか。

 
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石川 一郎

いしかわ いちろう

「香里ヌヴェール学院」学院長、「アサンプション国際小・中・高等学校」教育監修顧問。「21世紀型教育機構」理事。1962年東京都出身、暁星学園 に小学校4年生から9年間学び、85年早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。暁星国際学園、ロサンゼルスインターナショナルスクールなどで教鞭を執る。前かえつ有明中・高等学校校長。「21世紀型教育」を研究、教師の研究組織「21世紀 型教育を創る会」を立ち上げ幹事を務めた。著書に『2020年の大学入試問題』(講談社現代新書)がある。


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